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prologue
「エメリアー、朝よー!起きなさいー!」
「あと五分…いや、十分…」
エメリアは、普段は寝起きがいいほうだ。言い訳をするようだが。
なのに今日という日、自分という熱源で温まった居心地のいい布団をやけに出たがらないのは、理由があった。
「そんな五分も十分も待ってたらこの村の醍醐味ともいえるバザー祭りが終わっちゃうじゃない!」
…そう、バザー祭りだ。
「ねー母さん…どうしてもバザー祭り行かなきゃダメ…?」
説明しよう。バザー祭りというのは、村人…まあ、仮にAとしておこう…が、
『あーあ、最近物増えたなー、なんかそれにこの村ってなんか祭りとか無いし、妙に盛り上がらないよねー…あ、そうだ。もの売るのでバザーってのあるじゃん!それと祭り組み合わせたら面白そうじゃん!?』
という大変微妙な考えの元始めた祭りのことである。
意外と掘り出し物とかGETできたりするため、この村の地元の人以外にも来るという大きい祭りなのである。
…つまりは、たくさんの人にもみくちゃにされるという、買い物好きか、祭り好きか、はたまたドMしかよらないようなやっかいな行事、ととらえていただければよい。
そんなこんなで、エメリアはとっても、今時風に言うならば超乗り気ではないのである。
「母さん、今年は別にいかなくていいんじゃない?だって去年も一昨年も行ったでしょ?」
「掘り出し物とはいつ出会うのかわからないのよ、エメリア」
「何かっこよく言ってるの母さん」
「ああもう往生際が悪いわね、だったらいいもん!一人で行くもん!エメリアなんておばあちゃんのところに行ってればいいでしょ!」
ふん、と荒く鼻息を鳴らした母は、バスケットを手にもって、本当に一人で行ってしまった。
40も越した、どうみても幼子に見えない母の幼子のような発言にエメリアは少々あきれてしまった。
そういえば、僕がバザーに行くといったのも、こういった母の幼子のような発言&行動に耐え切れなくなったためだったな…と、エメリアは布団の隙間から見える窓の奥の空を遠い目で見た。
忌々しいぐらい空は澄んでいて、そしてとても広かった。
母の癇癪のおかげで自由になったエメリアは、のっそりと布団からはい出た。
布団の外は、思わず手を引っ込めるほど、ではないにせよ、少々肌寒く感じた。
それでああもう、9月なのだな、としみじみと思いながら、エメリアは、母の趣味満載の服へと着替えだした。
シャツにはやたらフリルがふんだんに使われており、カフスと呼べるのかわからないぐらいフリルまみれになっているものには、金の美しい飾りボタンがついている。
そのシャツの裾をしまっている膝上十センチ程度の長さしかない薄い茶のフレアスカートにも、やたらフリルがついていた。
さらに、スカートには、後ろにかわいいリボンがついており、そのリボンは自信を主張するかの如く、その端はスカートよりも長かった。
靴はいわゆるパンプス、と呼ばれるもので、それはまるで枯葉のような色合いをしており、落ち着きを醸し出していて、前述のシャツとスカートをいい意味で落ち着かせていた。
まあ、ここまで描写すればわかるのだろうが、一歩誤るとロリータとも呼ばれかれない格好に、エメリアは着替えたのであった。
「自由になったし、おばあちゃんの家に行ってー、あっ、そういえば、おいしいリンゴが手に入ったっておばあちゃん言ってたし、もしかしたら、おばあちゃんちの家にアップルパイあるかな!そしたら、アップルパイをごちそうになってー、そんでそのアップルパイをついでにお母さん用に包んでもらってー」
誰もいない部屋の無言を打ち消すかの如く、独り言を述べたエメリアは、かごにワインと、白いパンを、無造作に入れて、玄関から家を出ようとした。
が、エメリアは、何を思ったのか、玄関のドアを持ったまま動かない。何か忘れ物をしたらしく、ダダダダと自室に戻って、それからまるで懐中時計のようなペンダントを首から下げて、今度こそおばあちゃんの家へと向かいだした。
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