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wolf

…これが、証拠というのはいささか暴論が過ぎるような…。とエメリアはじっとペンダントを見ながら思った。だって、壊れているのだから。
 
 おばあちゃんが言っていた、開け方で開けられないのだから、確実である。絶対、勘違いとかではないと、おばあちゃんが証明しているはずである。
 
 …おばあちゃんが、ぼけていなければ、の話である。
 
 そのことを、”赤ずきんに伝えるために、口に出そうとすると、
 
「囲まれている」
 
 ふいに、“赤ずきん”はあたりを見回しながら鋭い声を放った。
 
「えっと、囲まれてるって…?」
 
「“あれ”に」
 
 “あれ”。先ほどの、僕を追いかけてきた奴らだろうか、とエメリアは思った。
 
 エメリアはどうやら、先ほどのことを思い出したらしく、細かく震えだした。
 
 指先が、急速に冷えてきたのだろうか、エメリアは、指をぎゅっと握りしめた。
 
 無表情の“赤ずきん”からは、“あれ”に関する情報―例えば恐怖だとか、嫌悪だとかそういった感情の情報―は一切感じられないが、油断できない状況だということが、“赤ずきん”の声の鋭さで理解できた。
 
「さあ、アリス、一旦帰ろう」
 
「…え」
 
 赤ずきんは、唐突にエメリアを見た。
 
 …囲まれているなら、帰ることは不可能ではないだろうか、とエメリアはふと思った。
 
 “赤ずきん”だけならまだしも、エメリアは体力もほとんど残っていない。
 
 さらに言うならば、先ほどの”あれ”との追いかけっこの際に作った傷に気を取られ、いつも以上に走れなさそうだった。
 
 生憎と、先ほどの恐怖と、”赤ずきん”の唐突さに、今は痛みを忘れているようだが。
 
「そのペンダントを開けて」
 
 “赤ずきん”のサクランボの唇からこぼれた言葉に、エメリアはなんでこんな状況でペンダント、と素っ頓狂な声をあげそうになった。
 
 ペンダントを開けて何になるのだろうか。
 
 さらにいうなれば、エメリアは、ペンダントを開けてと言われても開け方を知らない。
 
 そのため、エメリアは“赤ずきん”に渡して実際に体感してもらおうと思った。
 
 それに、武器にならないとも。
 
「えっと、はい、どうぞ」
 
-ポチ。
 
 上の丸い突起物を押して、ペンダントは容易に開いた。
 
…えっと。つまりは、開ける場所を勘違いしてたってことか…。
 
 言わなくてよかった、下手に恥をかくところだった…。
 
 というか!おばあちゃん、やっぱりぼけてきてた?
 
 孫に違ったペンダントの開け方を教えるだなんて!
 
 エメリアはそっと胸を撫で下ろしていると、“赤ずきん”は、ペンダントの中にあったらしい鏡を、そっと親指の腹で触った。
 
「さあ、アリス。手を貸して。」
 
「…?はい。」
 
 “赤ずきん”の手を握ったとき、世界は、反転した。
 
「え」
 
 エメリアはかなり戸惑った。だって、世界が、空が、月が、すべて逆、すべて、すべて。
 
「さあ、アリス。一瞬だけ耐えて」
 
 何に、と言う前に、世界は光に包まれて消えた。
 
 
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