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wolf

光がやんだ瞬間、目に入ったのは、森だった。
 
「ここは…。」
 
「よかった今回は、ちゃんと落ちたみたいだね、アリス」
 
「…落ちた?ってわあ、ごめん!ダイナ!」
 
 いつの間にか下敷きにしていたダイナの上から飛びのいた僕は、しかし、後ろの木に頭をぶつけて、振り子のようにダイナのもとへと勢いよく戻ってしまった。
 
「落ち着いてアリス。そんなにあわてても、何もないし、私はアリス程度の重さならびくともしないから、安心して」
 
「あ、う、うん」
 
 同性の女の子にさらっと軽いと言われたのになんだか素直に喜べないなあ、とエメリアはゆっくりとダイナの上から降りながら思った。
 
「それにしても、ダイナ…。ここ、どこ…?」
 
「ああ。ここは、物語の裏側、アンダーグランドってところかな。」
 
「物語の裏側…?」
 
「うん。」
 
 そういってダイナはすたすたと歩いて、森の近くの枝を拾った。
 
「えっとね、絵をかいたほうがわかりやすいから簡単に絵をかくね。」
 
 枝を一振りして―その動作に必要性があったのか問い詰めたいところだ―ダイナは絵を描き始めた。
 
「まあ、さっきまでいたところが“表舞台”。まあ、劇で言うなら、ステージ、といったところかな。」
 
と、一つの四角を書いて、表舞台、と文字を書きだした。
 
「ここはどんな人物でも自由に見ることができる、そういう場所なんだよ」
 
 四角の外に誰でも見ることができる、と書き込み、矢印を表舞台に向けた。
ご丁寧に表舞台と書かれた四角の外にいろんな人を書き出した。
 
「どんなに悪党でも、どんなに幼くても、老いていても、醜くても、綺麗でも、人間でなくても、どんなものでも見ることができる場所。それが表舞台だ。」
 
 泣いてたり笑ってたり、いろいろな顔をした人間がダイナの手によって書かれていく。
 
そして、猫のような不思議な動物も、ダイナの手によって書かれた。
 
「そしてステージだからね、誰でも乱入することができるんだ、アリス。たとえば、先ほどの本の虫のようにね」
 
 先ほどの虫をかわいくしたような虫が、四角に突入していた。
さっきの大きいのはとても怖かったけれども、うん、なんかかわいい…。
 
「でも、普通は警備システムが働いてくれて、乱入すること自体不可能なんだよね」
 
 勢いよく自分の書いた虫を踏みにじった。何かの恨みがあるかのように、勢いよく。
 
その勢いに、少々恐怖を覚えたといっても過言ではない。
 
そして、僕は、ダイナの言葉に疑問を感じた。
 
「でも、ダイナ。ええと、信じたくないけど、今回、私たちの物語に入り込んできたよ?警備とかがあるならば、入ることができないんじゃない?」
 
「ふつうは、ね。アリス。」
 
 もうほとんど、アリスという呼び名に違和感を感じなくなった私は、返事に間をおかないでいうことができるようになった。…あだ名だと思えば、きっと大丈夫なはず。たぶん。
 
「警備システムは基本、物語を守るために働いている。物語を正常に保つために。だからね、アリス」
 
 そこまで言って、僕は理解した。
 
「異常になってしまった物語は、守る価値のないものとしてみなされて、警備されなくなってしまうんだよアリス。」
 
 ああ、この世界は、見放されていると。そして…
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